僕は予備校の教壇で2009年3月までの20年間、物理の指導を担当してきた元予備校講師です。それまでの指導経験を活かして、長年の夢であった動画版高校物理を制作、2010年9月からインターネットを活用した講義動画の配信を開始しました。予備校での物理指導は貴重な経験となりましたが、組織の中での指導に限界を感じていたことと、個人的な事情が重なり、おもいきって全ての仕事にいったんピリオドをうち、高校物理の講義動画制作に取り組んできました。
 

予備校教壇での経験


 物理の講義は、基本事項の導入とそこで学んだ法則や公式を使ってみせる例題の解説で構成されるのが一般的です。参考書の多くは解説を文章やイラストによって展開するため、単純なことを説明するにも多くのページを割く必要があります。また、学生はそれを読みつつ頭の中で映像化することが要求されるため、消化するのに時間がかかってしまうという問題がありました。力学は身の回りのありふれた現象を扱っているためか、イメージしにくいという学生をあまりみかけたことがありませんが、波動や電磁気などは、日常的に経験する現象であるにもかかわらず、イメージしずらいという学生が圧倒的多数を占めます。これらの分野を文章とイラストだけで説明しきることに限界を感じていた僕は、2001年から動画による講義を目指して様々な準備をしてきたのです。
 
 長年の努力の末、2007年から2008年までは動画による講義を予備校の教壇にて披露し、波動などに対する受講生の理解度が飛躍的にアップしたことを確認できたのですが、予備校は良くも悪くも組織で動いているので、新しい提案に対して柔軟に対応してくれる環境ではありませんでした。映像を披露する機材のない職場環境の中で、自前の機材を持ち込み、なかば無理矢理講義をしていたようなものです。納得のいかない形で仕事を続けることに疑問を感じ、組織を離脱して自らの道を歩み始めたのが2009年4月のことです。
 
 

唯一の宣伝はYouTube無料動画


 撮影や編集を始めてみると、様々な障害がまちうけていました。カメラのピントが合わない、音声に雑音が混じる、映像のホワイトバランスがうまくとれない、編集ソフトの不具合など、数え上げればきりがないくらいの問題に遭遇しました。初夏のころだったでしょうか、力学編後半を撮影している時期に、あまりにも大きなトラブルに見舞われ、正直全てを断念しようと思ったことがあったのも事実です。しかしその難問が解決できたときに「これはいける!」と確信してから約1年、ネット配信に適した動画コンテンツを完成させることができたのです。
 
 スタート当初は、原子分野を除く導入と例題講座のみでネット予備校を開校し、派手な宣伝活動をすることもなく細々と営業していました。受講生は十数名にとどまり、特に営業上忙しいということはなかったため、演習講座の制作に注力することができました。
 受講生第一号は予備校に通う高校2年生で、彼はYouTubeの無料動画を視聴して当サイトの活動を知り、約1年半講義を受けてくれた奇特な受験生です。そして彼が日本の最高峰の大学に現役合格したことを報告してくれたのを今でも忘れることはできません。
 
 

震災の影響


 導入と例題講座の配信は順調でした。しかし何か物足りなさを感じ、モンモンとした日々を過ごしていたころに、あの忌まわしい震災が日本中を襲ったのです。
 開校当初に配信していた例題講義は、現在配信している動画とは異なり、多くの講師がつくる動画と同様に、ホワイトボードに板書をするスタイルを採用していたのです。もちろん制作が簡単であるということが理由だったのですが、結局予備校時代と変わらぬ講義スタイルである以上、伝えることができるレベルは当時と変わることはなく、何かが欠けている感じを拭えずにいたのは確かです。しかしそれ以上を望もうとすれば、明らかにより辛い道を選択することを意味しており、なかなか決断できない弱い自分がいました。
 
 震災の映像を繰り返し見せられ、原発のメルトダウンと戦う人たちのことを考えるにつけ、己がぬるま湯につかって生きているような感覚に襲われることが多くなったのはこのころです。そして、いつしか夢をみるたびに、厳しい作業を覚悟の上で、例題や演習講義のアニメーション化を実現できないか夢創するようになっていました。
 梅雨が開けた頃、突然何かに取りつかれたように制作を開始したのを覚えています。試しに例題1問分の制作を行い、そこからかかる時間を概算すると、例題の撮り直しだけで2年、演習講座の新設も含めれば3年から4年は必要となる計算でした。個人的な事情が重なった結果、予定どおりには行きませんでしたが、5年ほどの歳月をかけて現在配信中の講義動画を完成させることができたのです。実に構想から15年、作業を開始してから7年の歳月を要したことになります。
 
 

今後の展開


 2010年9月に開校したCSS大学受験物理単科予備校は、2016年4月にCSS高校物理へと名称を変更、さらに2020年3月にはすべての動画をYouTubeへアップロードすることで、多くの高校生に選んでいただける物理ネット予備校を目指して新たなスタートを切りました。
 
 今後は新しいタイプの入試問題の発掘と解説動画の制作、および開校初期に制作された力学から電磁気までの導入講義のリメイクに着手します。リリース時期を提示することはできませんが、数年ほどかけて順次新しいものに置き換えていきたいと考えています。
 
 まだまだやり残したことが沢山あります。より使いやすいサイトを目指して、いっそう努力を続けていくことを当サイトはお約束します。